商業空間のインテリアデザインで最初に聞くのは「ブランドのロゴを見せてください」ではない。「このお店に来た人に、帰り際に何を感じてほしいですか?」という質問だ。空間はブランドの説明書ではなく、体験の場だ。その違いを理解しているかどうかで、設計の出発点が変わる。
ブランドを空間に翻訳するとはどういうことか ¶
ブランドの世界観を空間に翻訳するとは、ブランドカラーを壁に塗ることではない。ブランドが持つ「時間の感覚」「素材への姿勢」「客との距離感」を、空間の構造・素材・照明で表現することだ。ミナミ堀江のワインバーでは、「気取らないが手を抜かない」というオーナーの姿勢を、砂岩のカウンターと手書きのメニューボードで表現した。
住宅と商業空間の設計の違い ¶
住宅は「住む人のための空間」だが、商業空間は「来る人のための空間」だ。住宅では施主の生活習慣が設計の基準になるが、商業空間では来客の行動パターンと滞在時間が基準になる。代官山のアパレル店舗では、客が商品を手に取る動線を先に設計し、什器の配置をその後に決めた。
照明が商業空間で果たす役割 ¶
商業空間の照明は、住宅以上に意図的である必要がある。商品を見せる光、客を誘導する光、ブランドの雰囲気をつくる光。これらは別々に設計する。代官山のアパレル店舗では、商品棚への演色性Ra95のスポットライトと、通路の間接照明を分けて設計した。照明の試作に3週間を費やした。
予算の制約の中での優先順位 ¶
商業空間のインテリアデザインでは、予算の制約が住宅より厳しいことが多い。ミナミ堀江のワインバーでは、予算が限られていたため、削る場所と削らない場所を明確にした。天井の仕上げは最小限にし、カウンター天板と照明に予算を集中させた。客が最も長く視線を向ける場所に、最もコストをかける。
竣工後の空間の変化 ¶
商業空間は、使われることで変化する。什器に傷がつき、壁に染みができ、床が摩耗する。この変化を「劣化」として設計するか、「経年」として設計するかで素材の選択が変わる。ミナミ堀江のワインバーの砂岩カウンターは、1年後に傷と染みがついた。それが空間の一部になっている。
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